ネイルサロンで提供するイギリス人のミルクティーとその思い出



イギリスのサロンで働いていたころは当たり前だったことも、日本に帰ればやっぱり文化の違いだなあと感じたことは数知れず。例えばサロンでお客様にお出しする紅茶のお話です。近年イギリスでもコーヒー派が増えましたが、当時はやはりミルクティーが主流。イギリスは硬水なので、濃い目に出した紅茶に牛乳をいれて作るミルクティーの美味しいことと言ったら!しかしこれが難題でした・・・。「紅茶は濃い目でミルクは後入れで、砂糖は2杯ね」「ミルクは先入れで、ティーバッグは2~3度ゆする程度でお願い」「砂糖はスプーンに2杯、すりきりで計ってね」「紅茶はカップの半分までで、カップのふちまでミルクを足して、砂糖はとがるくらいの山盛りで」・・・一人ひとり、全部リクエストが違います。そして飲んで気に入らないと当然作り直しです。今でも常連だったお客様のリクエストははっきり覚えています。しかも紅茶を飲む権利は当然ネイルテクニシャンにもあるわけで。新人が入ってくると、まずは先輩の紅茶を淹れることから始まりますが、面白がって作り直させる人もいました。私?いえいえ、作り直しなんて失礼なことはしたことありません。ただ一度決めたらずっと同じものを飲むイギリス人と違って、ミーハーな日本人ですから、日によって飲みたいものが変わります。毎回聞かなければいけないので、結局は嫌がられました。





両親からの教え、トイレは綺麗にしておくもの!一人改装に奮闘



働き始めたサロンは素敵なお店でしたが、私にはどうしても我慢できない場所が一つありました。それはトイレ!中はきついオレンジと深緑という悪趣味な配色、所々ペンキが剥げ、カーテンは古く、棚には極彩色の猫と魚(しかも変な顔)のオブジェが置いてありました。トイレこそ綺麗にしておくもの、と両親からずっと教えられてきた私は、ある日思い切ってボスにこうお願いしました。「費用は全部私が持ちますから、週末使ってあのトイレ、塗り直させてください。今よりゼッタイ綺麗にしてみせます!」あっさりとOKしてもらい、その足で濃淡のラベンダーのペンキ3色を買いに行き、週末に塗り直しを決行。ドア、壁、床、天井、棚を全部塗り直しました。古いカーテンは捨て、オーガンジーに金の星のプリントがしてある布を買って縫いつけ、棚の猫と魚はラベンダーと黒と金で塗って新たにかわいい模様を描き足しました。あとは便器と便座と窓を磨いて完成です。週が明け、ボスもサロンのみんなも想像以上に喜んでくれました。その後、トイレには季節のオブジェやキャンドルが飾られるようになり「トイレに入るのが楽しみ!」とお客様に言っていただけるようになりました。結局はそれを機に、サロン全体を改装することに。私は広い天井の塗りを担当することになり・・・。耐え難い首の痛みにトイレの改装をちょっぴり後悔したのでした。





クリスマス編イギリスのサロンはきらびやかな異世界&おもしろ話



10月にもなると、クリスマス前の予約帳は朝9時から夜11時まで前金制の予約でいっぱい。常連のお客様に加えてご新規も多く来店されるので、ネイルテクニシャンは食事はおろかトイレにも行けないほどの忙しさでした。受付嬢が淹れてくれるミルクティーと、お客様の差し入れのチョコレートを糧に毎年みんなでなんとか乗り切ったものです。クリスマスの風物詩のひとつが「クリスマスキャップ」。そう、スタッフ全員があの赤に白のボンボンがついた帽子をかぶるのです。そして「クリスマスカードリボン」。これは各ネイルテクニシャンの背後に天井からリボンをたらし、そこにお客様からいただいたクリスマスカードをホチキスでとめていくというものでした。当然指名数が多いテクニシャンがカードを沢山いただけますし、それはお客様にも一目瞭然。カードをたくさんGETするとボーナスをもらえるので、ご新規をなんとか自分のお客様にとみんな必死で働きました。さらにお客様から頂いた「クリスマスプレゼント」はクリスマスが終わるまで持ち帰り禁止。ずっと自分の背後に積んでおきます。プレゼントをねだっているようで馴染めなかったのですが、お客様によれば「自分のネイルテクニシャンがこんなにプレゼントをもらえる子で嬉しい」んだとか。なるほど。とにかくクリスマスは忙しかったですが、サロンは毎年きらびやかな飾りつけで異世界でしたし、ウキウキとした楽しい雰囲気でした。今年もそろそろサロンの予約は一杯かなあ・・・と懐かしく思い出します。
田賀 美鈴(MOGA・BROOK)





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