“ざっくり”は難しい?!短時間で効果的な情報の伝え方とは
私たちは日常生活の中で”情報を伝える側”や”情報を受け取る側”になる場面が度々あります。その中で“抽象度”が重要なポイントになってきます。情報発信者の伝え方によって、受け手の理解力に大きく差が出ることは言うまでもありませんが、理解されやすい情報発信とはどのようなものなのでしょうか。
例えば、あなたが自分の好きな映画を友人に勧めるという場面。友人はその映画を見たことがなくストーリーも全く知らない上、興味のないジャンルだったとしましょう。こういった場合、どのように映画の内容を伝えたら友人は興味を示してくれるでしょうか?
A:登場人物を事細かに説明し、ストーリー冒頭から順を追って時間をかけて説明する
B:細かい説明はせずに”ざっくり”と大まかなストーリーの流れ、要所のみ説明する。
このようなsituation、経験のある方が多いはずです。あなたはどちらのタイプでしょうか?
ここで重要なのは“友人にとって興味がないジャンルの映画”ということです。
興味を持ってもらえる可能性があるとすれば、断然Bの説明でしょう。
Aのような“具体的”な説明は求められた時にすればよいものであって、いきなりそこまで掘り下げて話しても、苦痛な時間になってしまう可能性が高いのです。話の途中で相手にシャットアウトされてしまうかもしれません。
逆に、Bのような抽象的な説明は、本当に必要な部分のみを抜き出して余分な情報が削ぎ落とされているため、短時間で全体像を捉えやすく非常にわかりやすいです。
それゆえ、興味のない人にも理解、少なくとも知ってもらえる可能性は高いのです。
もしあなたが情報を受け取る側だったとしても、まずはBの説明から聞きたいはずです。
このように、相手に情報を伝える際には、“抽象度”というものがかなり重要になってきます。細かく内容を伝えることは時間をかければ誰にでも出来ますが、短時間でわかりやすく全体像を伝えること、つまり“抽象度”を上げることは会話のレベル(情報伝達能力)が高い人でなければ非常に困難です。
大雑把なように聞こえる“ざっくり”ですが、これをうまく使いこなせる人は非常に情報伝達能力が高いということなのです。
これを“ネイル”という視覚的情報伝達部分に置き換えて考えてみましょう。
ここがネイリストの腕の見せ所!ネイルの魅力を伝えるポイント
前述した映画の説明が聴覚的情報伝達であれば、ネイルは視覚的情報伝達の部分です。
『映画の説明をする人=ネイルを身につけた女性』これをA、
『映画の説明を受ける人=ネイル未体験の女性』これをBとして、
BがAを見た際に視覚的に受け取る情報について考えてみます。
例えば、Aが身につけたネイルが非常に複雑で専門性の強いデザイン(≠ファッション)であったとしたら、Bにとっては情報の具体性が強すぎて、より“ネイル”というものを遠く感じてシャットアウトしてしまうかもしれません。
仮にBがネイルアーティストやその他アーティスティックな職業に従事していれば話は別ですが。
つまり視覚的情報伝達においても、具体性の強い情報というのは一部の知識のある人物(同業者、経験者)にはスムーズに伝達されますが、その他大勢には伝わりにくい傾向にあります。
これは決して具体的なことが悪いというわけではありません。ただ、ネイルというマーケットを拡大、つまりネイル未経験の女性にもネイルの素晴らしさをよりスムーズに視覚的に伝えるには“抽象度”をより向上させる必要があります。
わかりやすい例をあげれば、ネイル雑誌とファッション誌です。どちらの誌面でもモデルがネイルを身につけている写真をみかけますが、前者のネイル雑誌は”ネイル”がメインですので、当然のことながらかなり具体性が強くネイルが主役(≠ファッション)になります。
それに対して後者のファッション誌では、主役はモデルや洋服であり、あくまでもネイルは引き立て役に徹するべく、限りなくシンプルなワンカラーであることがほとんどです。
つまりファッション誌などで採用されているネイルというのは、ファッションとのリンク、脇役であるということをしっかり押さえ、非常に“抽象度”が高い、すなわち視覚的情報伝達がスムーズに行われるネイルであると言えます。
以上のことを踏まえた上で考えると、Aが“抽象度”の高いネイルを身につけていれば、Bが受け取る情報は大きく変わってくるでしょう。
もちろん何も受け取らない場合もあるかもしれませんが、少なくとも具体性が強い場合よりは“ファッション”という全体像の中に組み込まれ、「あの人は指先まで綺麗にしているな」「素敵だな」といった印象が残りやすいはずです。
ネイルの原点“manicure”のワンカラーこそが、最上級のアートとなる
前述した“抽象度”の高いネイル、それはmanicureルックの仕上がり。これに尽きると思います。
私は“ネイル”を職業として様々なアートを追求し、提供してきましたが、ファッション誌などを見る度に痛感させられるのは、決して“ネイル”が主役になってはいけないということです。
どのページを見ても、ワンカラーの美しくもさりげない絶妙な存在感がファッションとスムーズにリンクし、モデル(主役)をさりげなく引き立てる“名脇役”に徹しています。
“アートパレット=爪10本”という視点を少しずらして、ネイルを身につける女性のライフスタイル、ファッション、という部分までをパレットの一部であると考えれば、manicureルックのワンカラーこそネイルの原点にして最上級のアートなのではないかと強く感じます。
これは客観視すれば当たり前のことなのかもしれませんが、“ネイル”を本業にしていると、ついついアート性にのめり込み霞んでしまいがちな部分です。
各メーカーから発売されている数十~数百色のカラー、これは色そのものが企業努力によって生み出されたアートです。
我々アーティストはその色(アート)を最大限美しく見えるよう爪の上に表現する。これが最も視覚的情報伝達がスムーズに行われる理想的なモデルであり、メーカー側の意図を最大限汲むことができる最もシンプルな方法です。
もちろんニーズに応じたアートは必要ですが、そんなときは“最小限のアートにして最大限のアイキャッチ”を忘れずに、one color+one specialによってスムーズな視覚的情報の伝達を意識してください。
アーティストが“抽象度”を意識した提案を心がけることで、「ネイルって素敵だな。挑戦してみようかな」といった視覚情報を受け取る女性が増加し、“ネイル”というマーケットがさらに拡大することを心から願っております。
大塚翔太(3D Attacker)